タバコを吸いながら

 「ながら族」という言葉が一時期盛んに言われた。「ながら」は,「動作Aと共に動作Bが行われることを示す」副助詞で,「ながら族」は,「ラジオを聞きながら勉強する」「テレビを見ながら食事する」といった生活習慣を指した言葉だ。
 わが家でテレビを設置したのは,世間一般よりは遅れて,子どもが物ごころ付いてからだが,以来今日に至るまで,「テレビを見ながら食事する」ことはしない。長時間にわたるスポーツの実況をラジオで聞きながら,ということは有るけれど,「テレビを見ながら」というのは,作業への集中力を妨げられることにもなる。テレビか,作業か,どちらかに集中すべきだと思っている。集中して観る必要の無いテレビ番組も多いけれど,そんな番組を見るのは,さらに無駄なことだ。
 晩年の亡母に,テレビを見ながら眠っていることがよく有った。これは,気持ちが弛緩するに任せて,老いれば,心地良いことかもしれない。私も,少年のころの夏の午後,ラジオで野球を聞きながら,うとうとするのが快かった記憶が有る。
 テレビと違って,これは「ながら族」の範疇には入らないと思うけれど,「タバコを吸いながら」作業をすることは多い。特に思考力を働かせるときには,タバコを吸いながらのほうが,思索が深まる効用も有るように思う。今春刊行(新潮社)された最新作『高く手を振る日』を書き終えるのに3年近くかかったという黒井千次さんが,「検査で体内に異常を発見されて」手術を受け,「それに伴う禁煙のせいもあり、一月半に及ぶ病院生活を終えて退院し少しずつ体力が戻っても、容易に仕事の始められぬ状態が続いた。煙草を吸わずに小説を書くのは至難のことだった。」 と書いている(7月30日付「朝日新聞・夕刊」『私の収穫10・夕べの面影』)のに共感する。
 しかし,最近,「タバコを吸いながら」も,控えようと思い始めている。体調のせいで自然に減っては来ているものの,考えながらタバコを咥えていると,喫煙量が,つい増えてしまい,健康上も良くないし,タバコの値上げの時期も迫っているからだ。
 今の暮らしでは,急いで処理しなければならぬことは少なく,時間には余裕が有る。タバコが欲しくなれば,一息入れて,ゆったりした気持ちで吸ったあと,再び作業に掛かれば良いことだ。パソコンの作業で進行に時間が掛かるときも,つい先を急ぎがちだが,パソコンの動きをゆっくり待つように,気の持ち方を変えて行かねばなるまい。そういうときこそ,タバコを一服しながら待てば良い。

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