老いを悲しむ

 5月には行きつけの理髪店の店主の十七回忌を迎える。休日の趣味にしていた写真撮影に出掛けていて脳梗塞に因り急死したのだが,告別の日,突然取り残された夫人が棺にすがって慟哭していた姿を思い浮かべる。その後,夫人が店を継ぎ,二人の子息はそれぞれ独立していたので,70歳を越えて今も独りで頑張っている。私も40年来の馴染みなので変わらぬ客として通っているけれど,同様に残っていた高齢の固定客も一人二人と減って行き,細々ながら店は続けているものの,独り暮らしの寂しさを思いやった子息たちが連れてきた一頭の犬を気持ちの支えにして暮らしていたようだが,その愛犬も昨秋先立ってしまい,そろそろ「オカアチャン」も心身の衰えが見えてきて、店を閉めることも考え始めているようだが,今はまだ子息たちの厄介になるのも気が進まず,かといって独りで仕事の無い生活では衰えがさらに進む惧れも考えてしまうと言う。
 昔から床屋が町内の情報を語り合う場としてよく言われるけれど,店を開けている限りは,通ってくる古い客との会話も有り,私のようにこちらから話し掛けることは少ない者にも,それらの馴染み客の話の内容をいろいろ聞かせてくれるが,それも老人の愚痴がもっぱら多くなってきているようだ。
 認知症の進行が目立ちつつある老妻を介護する苦労を語る人が何人も在り,既に連れ合いを喪った人の家をときに見舞うと,室内は乱れ,仏壇には花も供物も無い寂しい暮らしの様子が感じられるし,顔剃りに来る女性の中には,やがて自分が入ることになる墓について,先立った夫の身内の墓に入るのは気が進まないというような気持ちを語る人も在るという。核家族化が進む時代に,老いて独り暮らしの境遇に置かれている人も少なくないと思われる。
 そんな客の姿を見聞きするにつけても,亡夫の墓参も意のままにならなくなってきた自分の行く末が心細く思われて,夫と犬の遺影に語り掛けながら眠れない夜を過ごすことも有る思いを聞いてくれる相手が欲しいようで,最近は,散髪が終わっても代金だけ支払って帰るわけにいかず,暫くは話の聞き役を果たさなければならない時間がしだいに長くなってきた。
 それも他人事であれば,慰めや励ましの言葉も掛けられるけれど,いつ我が身の上になるか分からないことだ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

いざよひ
2019年03月30日 20:11
おひおひに寄る年波の高くして しのぐ堤の無きぞ悲しき

この記事へのトラックバック