「資産寿命」?

 寒の戻りとやらで冷え込みの厳しい日が有ったかと思うと,5月というのに真夏日になったり,体調が調わず,過ごしにくい日を送っているうちに,庭の樹木や草が急に勢いを増してきた。これまでなら日数を掛けてでも独りで何とか処理をしてきたのだが,脚立に上がって高い枝を伐るのが自分でも危うく感じられるようになり,この齢になると1年の間に老化が進むのも速いと思い知らされる。隣県で暮らす息子が私の身を案じて手配してくれた知人に,体力を要する部分は1日で処理してもらったけれど,雑草引きまでは手が回っていない。
 幼いころ一緒に暮らしたことのある母方の祖母が呟いていた「子を見りゃ荷が重い」(若い人の姿を見ると労力の要る仕事はつい代わってほしくなる)ということわざを思い出した。民俗学者の宮本常一が「家訓の島」と呼んだ所で,老人たちは村に伝わる俚諺を事々に口にしたものだが,まさに子が手を差し伸べてくれた途端,すっかり気力を失い,「万事お任せ」したくなっている。
 雑草と言えば,ちょっと手を抜いているとすぐ伸びてくる不精髭と同様だ。体力が衰えると気力にまで影響して,電気シェーバーを使う髭剃りでさえ最近は億劫になり,古くなったシェーバーでは,伸びるとますます手が掛かる。
 「平均寿命」の延びた時代だが,人によって「健康寿命」には限りが有るし,最近は「資産寿命」という言葉も生まれているようだ。人生100年時代に向けて,平均寿命が延びる一方,年金支給額の維持が難しくなり,政府は,老後の生活費について,「資産寿命」を延ばすよう,国民の「自助」を呼び掛けるという。
 政府は「生涯現役社会の実現」に向けて認知症の予防促進目標を掲げるなど,対策を強化する考えのようだが,その一方で,5月17日の厚生労働省の発表によると,働く高齢者の増加に伴い労働災害が増えているという。加齢とともに,視力や聴力,バランス保持能力等の身体能力が低下していくことに因るもので,「生涯現役」の当然の結果と言えよう。「労災」に限らず日常の暮らしの中でも事故は増えるに違いない。
 齢を取っても元気なうちは働けと言われてもそう簡単ではない。老いてこの先「資産寿命」を今さらどうやって延ばすことができるのか,その対策は政府自体が考えなければならないことだろう。長生きをめでたいことのように言いながら,社会の現実は高齢者の生活へのしわ寄せが多くなるばかりではないか。高齢者は長生きだけを願っているわけではない。「姥捨て山」の時代ならずとも,何事も自力で叶わなくなれば,老いの苦しみに耐え周囲に迷惑を及ぼしてまで無為に生きていたいとは思わない。高齢者が安心して生きられるよう,政策として高齢者援護をさらに強化できないのであれば,むしろ,「高齢者自死援助法」でも制定してほしいところだ。
 間もなく本格的な梅雨期に入る。夏に向かって生きる辛さも増すことだろう。去年は越せたことであっても,今年はどうか,分からないことだ。

この記事へのコメント

いざよひ
2019年06月07日 19:24
去年(こぞ)越せて今年あやしの齢(よはひ)かな 子を見りゃ背負子(おいこ)の荷こそ重けれ
岡目七目
2019年06月08日 21:00
深読み勝手解釈 「背負子」をショイコでなく「おいこ」と読ませるのは<老い来>の意に掛けたもので、三句の「齢(よはひ)」が<老い来>たりて荷が重いとのことでありましょうか。

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