「絆」と「しがらみ」

 「(口うるさかった)父親が亡くなって,淋しいけれども,自由になった」。妻が視ているテレビドラマの中でヒロインが言う科白が耳に入った。知り合いの夫人で,連れ合いを喪って暫くしたのち,表情が明るくなり,かえって伸び伸びと暮らしているように感じられる姿を見かけることも有るのを連想した。近年,災害が増えていることも有ってか,「絆」という言葉が使われることが多いけれど,肉親の「絆」は断ち難い反面,「しがらみ」を併せ持つことも否定できまい。
 人と人との間には,まして親子関係の仲では,依存と気掛かりと,両面の気持ちを常に伴っているものだと思う。それが断ち切られたとき,望まなくても,ある種の解放感を味わうことも有ろう。
 最近,パソコンを起動すると,いきなりセキュリティ・システム破損の警告が表示されて削除できないことが有る。詐欺サイトに誘導される惧れを感じて,そのまま他のサイトのバーをクリックすると作業できるので無視しているけれど,ポイントを溜める特定のゲームサイトと連動している様子なので,プロバイダに問い合わせたところ,他のサイトに入り込んでいるものは除去できないという。やむなくそのサイトとは繋がらないようにゲームアプリのほうを削除して開けないことにしたのだが,毎日の習慣になっていた楽しみを失うのを淋しく感じるとともに,私にとっては,これも依存症の一つだったのかもしれないと思い,かえってさっぱりした気持ちにもなっている。
 こうしてパソコンに縛られる時間がしだいに少なくなっていくのも,今となっては良いことかもしれない。

今年の漢字

 齢を取ると,思い違いや勘違いをすることが増えるようだ。記憶違いをしている場合も有る。認知機能の衰えに因る「間違い」ということになろうか。それはそれで「また間違った」と笑って済ませれば良いことかもしれないと思うけれど,最近多くなっている高齢運転者の自動車事故の原因として挙げられているペダルの踏み間違えなどというのは,人の生死に関わることなので看過できない。何とかして防がなければならない高齢化社会の課題だ。
 そこまでは言わば「過失」の問題だけれど,それ以上に気になるのは,「意図」して為される「違反」行為だ。明らかに「違法」と知りながら行政や企業が平然として行う「情報隠し」など,許し難いことが少なくない。その背後に在るのは今の政権の姿勢にほかならない。口先だけは「民意尊重」「説明責任」を唱えながら,実態は民意とは大きく隔たった「民違」とでも書き換えられる姿勢だと言えよう。中には「違憲」と断じるべきことさえ在る。
 その政治情況と民意との「相違」に「違和感」を抑えられないまま,この一年が終わろうとしている。
 かくて,私が選ぶ「今年の漢字」は,「令」などという「きれいごと(言)」でなく,「違」の一文字しか思い浮かばない。

one team

 「one team」が「新語・流行語大賞」2019年年間大賞に選ばれた。このスローガンを最初に目にしたとき,「一億一心火の玉だ」という戦時中の標語が頭に浮かんだ。そして,「玉砕」という語を連想した。しかし,「one team」は,それとはまったく異なる。「一億一心」は,「国粋主義」を基に作られた国策による言葉だ。それに対して,「one team」は,多国籍選手を擁したラグビー・ワールドカップ日本代表チームのジョセフHCが提唱したスローガンで,民族の違いを越えてチーム全員が一つになろうという,戦時中の官製標語とは正反対の気構えを表している。そして,日本チームが心を一つにして,世界ベスト・エイトの成績を挙げた故の大賞である。
 だが,現代の日本社会にはまだ,排他的な思想を持つ多くの人が存在している。自己の利益や保身のために詐欺的な反社会行為をする輩と変わるところの無い連中も,日本だけに限らず,世界の指導的な立場にいる人たちの中にも残っている。
 スポーツ界の盛況に浮かれるだけに終わらせず,地球の温暖化防止対策を初めとして,世界が真に「one team」となる取り組みを望みたい。ただし,「one team」でも,独善的で,数を恃みにごまかしに終始する1強与党は認め難い。